心が折れて退職した40代男性へ|次を急がなくていい、今の自分を整える視点

退職してから、どんな気持ちで過ごしているでしょうか。ホッとしている自分もいるかもしれませんし、そう単純には言えない、というのが正直なところかもしれません。

頑張れなくなるまで頑張って、その果てに辞めるという決断をしたのなら、今の自分がどう感じるべきなのか、うまく言葉にできなくても当然です。安堵よりも、疲れ切って何も感じられない状態に近いかもしれませんし、悲しみや悔しさの方が大きいかもしれません。この記事は、その気持ちに名前をつけようとはしません。ただ、少なくとも一つだけ、先にお伝えしたいことがあります。それは、次のことを急いで決める必要はない、ということです。

※記事のアイキャッチ、及び記事内の人物イラストは、内容をもとにしたイメージ画像です。実在の人物ではありません。

まず知ってほしいこと。それは甘えでも、失敗でもありません

先に結論をお伝えします。「心が折れた」ことも、退職という決断をしたことも、あなたの能力不足や甘えの証拠ではありません。そのうえで、「次のキャリア」を急いで決める前に、まず心と生活を分けて、今の状態を整理することを優先してください。

「頑張りが足りなかった」わけではない

「もっと頑張れる人もいるのに、自分は続けられなかった」——そう感じているかもしれません。しかし、心が折れるところまで働き続けたという事実そのものが、頑張りが足りなかったのではなく、むしろ十分すぎるほど頑張った証拠でもあります。本当に頑張りが足りない人は、そもそも心が折れるところまで自分を追い込みません。限界まで働き、それでも続けようとしていたからこそ、折れるという結果に至ったのです。壊れる前に離れるという判断ができたことを、まず認めてあげてください。

「あなたは頑張ることを諦めたんだ」と言われることがあります。違います。15年間、子どもを育てながら、週70時間近く働いてきました。頑張ることをやめたんじゃない。頑張りすぎて、限界まで行ってしまったんです。疲れていることにも気づかず、周りの「少し休んだほうがいい」というサインも無視していました。今思えば、あそこまで無理をする必要はなかったと思います。

※「ひとりのレッスン」編集部に寄せられた声をもとにした内容です。掲載にあたっては、ご本人の許可をいただいています。

次を急いで決める必要はない

「早く次を見つけなければ」という焦りがあるかもしれませんが、今すぐ決める必要はありません。実際に、辞めた後すぐに転職活動を始めず、数か月かけて自分の状態を整理してから次に動いた、という声も少なくありませんでした。次を決めることよりも先に、今の状態を整理すること自体を、この記事の一つ目のゴールとして考えてください。

44歳で退職して、3週間後には次の職場に飛び込みました。焦っていた部分もあったのだと思います。でも、これが失敗でした。同じようなストレスに押しつぶされて、また燃え尽きてしまった。結局、変わったのは職場だけでした。あのとき、次を急ぐより、自分が本当は何を求めているのかをもっと考えるべきだったと思います。

※「ひとりのレッスン」編集部に寄せられた声をもとにした内容です。掲載にあたっては、ご本人の許可をいただいています。

なぜ、心が折れるほど消耗してしまったのか

「なぜ自分はここまで消耗してしまったのだろう」——それは、あなたの弱さの問題ではなく、仕事の”中身”に関わる、構造的な理由があった可能性があります。

「量」だけでなく「質」の問題だったかもしれない

働く時間の長さだけが、消耗の理由とは限りません。メールや会議への対応、細切れの依頼といった、一つひとつは小さくても絶え間なく続く仕事(浅い仕事)が積み重なると、まとまった時間をかけて取り組む本来の仕事(深い仕事)に集中できないまま、消耗だけが蓄積していくことがあります。一日中働いていたはずなのに、夕方になって「今日、結局何をしたんだろう」と思う日が続いていたなら、それは働いた時間の長さではなく、常に何かに反応し続けていたことそのものが、消耗の理由だったのかもしれません。「量をこなしていたはずなのに、何も達成できた気がしない」という感覚があったなら、それは仕事の”質”の問題だった可能性があります。

私の仕事は、ただ反応するだけの仕事になっていました。100通のメールに返信する。Slackに対応する。スプレッドシートを更新する。上司が聞けば答える。部下から声をかけられれば対応する。その繰り返しです。そこに深みも、専門性もない。何かを生み出している実感もない。何年かけても、「自分はこの仕事をしてきた」と胸を張って言えるものが何もありませんでした。

※「ひとりのレッスン」編集部に寄せられた声をもとにした内容です。掲載にあたっては、ご本人の許可をいただいています。

転職しても、同じ状態に戻ることがある

「ひとりのレッスン」編集部に寄せられた声の中には、心が折れて転職した人が、給料や役職が上がったにもかかわらず、数週間から数か月で同じ消耗状態に戻ってしまった、という投稿が複数見られました。

転職してから、しばらくは少し楽になりました。ところが、6カ月ほど経つと、また以前と同じような状態に戻ってしまいました。転職そのものは、ある程度は助けになりました。でも、以前の職場が特別ひどかったわけではなかったんです。何週間かすると、また同じ感覚(燃え尽き)が戻ってきました。今になって思うのは、私を働き続けさせているのは、お金や達成感だけではなく、人とのつながりだったということです。

※「ひとりのレッスン」編集部に寄せられた声をもとにした内容です。掲載にあたっては、ご本人の許可をいただいています。

「燃え尽きは、方向転換のサインであって、別の場所で同じことを繰り返すサインではない」——そのような意見もありました。転職先を探す前に、何が自分を消耗させていたのか、その”中身”を確認しておく価値はありそうです。

「自由」は、大きな成功の先にあるとは限らない

心が折れるほど働いた経験を経て、「次はもっと成功しなければ」と考える必要はありません。むしろ、逆の視点も選択肢としてあります。

仕事を「小さくする」ことは、負けではない

「出世しない」「今より責任の軽い仕事を選ぶ」という選択は、後退でも敗北でもありません。これまでのキャリアで積み上げてきた経験やスキルを踏まえたうえで、意図的に働く時間や責任を小さくし、そのぶん生活の他の部分を大きくするという、一つの合理的な選択でもあります。

コンピュータ科学者のキャル・ニューポート氏は、コロナ禍に多くの知識労働者が離職した現象を分析したエッセイの中で、この動きを「キャリア・ダウンサイジング」と呼び、パンデミックが多くの人に「仕事が人生の中でどんな役割を果たすべきか」を考え直すきっかけを与えた、と論じています。「もっと大きく」だけが、唯一の正解ではありません。

出典:Cal Newport, “On the Pandemic and Career Downsizing”

46歳で、管理職を離れて専門職として働くキャリアに切り替えました。給与は下がりましたが、ストレスは大幅に減りました。キャリアを「ダウンサイズ」したというより、仕事以外の自分の人生を大きくできたように感じています。「人生を失った」のではなく、むしろ「人生を取り戻した」という感覚です。

※「ひとりのレッスン」編集部に寄せられた声をもとにした内容です。掲載にあたっては、ご本人の許可をいただいています。

まず「理想の生活」を描き、そこから仕事を逆算する

「キャリアをどう大きくするか」ではなく、「どんな一日を過ごしたいか」「どんな暮らしがしたいか」を先に思い描いてみてください。朝は何時に起きていたいか。誰とどれくらいの時間を過ごしたいか。仕事以外に、続けたいこと、始めたいことは何か。そのうえで、その生活に必要な分だけ働く、という順番で考え直すこともできます。

多くの人は、無意識のうちに「まずキャリアを最大化し、余った時間で生活を組み立てる」という順番で考えがちです。それを一度、逆にしてみるということです。今すぐ答えを出す必要はありません。次を考えるときが来たら、頭の片隅に置いておいてほしい視点です。

44歳で退職しました。20年以上、必死に仕事をしてきました。昇進して、責任のある仕事を任されて、ようやくたどり着いたと思った場所から見えた景色は、思っていたほど素晴らしいものではありませんでした。そこで、「次のキャリア」を考えるのをやめました。代わりに、「次の火曜日」をどう過ごすかを考えるようにしたんです。朝はゆっくり起きて、コーヒーを飲む。本を読む。仕事は5時間くらいにする。昼は友人とご飯を食べる。夜は好きなものを食べて、ゆっくり過ごす。これまで「次に何を目指すか」ばかり考えていました。でも今は、「自分は1日をどう過ごしたいのか」を考えるようになりました。

※「ひとりのレッスン」編集部に寄せられた声をもとにした内容です。掲載にあたっては、ご本人の許可をいただいています。

今の生活を、心と分けて整える

感情の整理には、自分でコントロールできない時間がかかります。一方で、生活面は、感情の整理を待たずに、今日から手をつけることができます。

知っておくと安心な、経済面の制度

退職したあと、「この先の生活は大丈夫だろうか」と不安になるのは、当然のことです。心身の不調を抱えたまま仕事を離れたのであれば、まずは生活を立て直すことに気持ちを向けたいところです。

実は、心身の不調が理由で退職した場合、雇用保険上の「特定理由離職者」に認定される可能性があります。通常の自己都合退職には給付制限がありますが、特定理由離職者に認定されると、この給付制限が原則免除され、7日間の待期期間の後、比較的早く失業手当を受け取れる場合があります。認定には、主治医の診断書などの書類が必要になることがあります。実際に対象になるかどうかは、それぞれの状況によって判断されます。

「退職したら、すぐに働かなければならない」と焦る必要はありません。まずは生活を支える制度について知っておくことも、心を立て直すための一歩です。詳しい条件や必要な書類については、ハローワークに相談してみてください。

「次のキャリア」より先に、生活のリズムを整える

感情の整理や次のキャリアを考えることは、今すぐでなくて構いません。まずは、睡眠時間を一定にする、決まった時間に食事をとる、日中に少しでも外の光を浴びるなど、生活の土台となる部分から整えてみてください。派手さはありませんが、こうした小さな積み重ねが、次に何かを考える体力を少しずつ取り戻す助けになります。

「辞めてから次を決めるまで、数か月かかりました。焦って求人を探すのではなく、生活費の見通しを立てて、面接の練習をしたり、ずっとやりたかった小さなことに手をつけたりしていました。振り返ると、あの期間があったから、同じ場所に逆戻りせずに済んだんだと思います」

※「ひとりのレッスン」編集部に寄せられた声をもとにした内容です。掲載にあたっては、ご本人の許可をいただいています。

それでもつらいときは、一人で抱えなくていい

ここまでお伝えしてきたのは、自然な範囲の消耗への向き合い方です。ただし、それを超えるつらさが続いている場合は、話が別です。

「自然な消耗」と「専門的なサポートが必要な状態」の目安

「心が折れた」という感覚そのものは、医学的な診断名ではありません。ただし、気分の落ち込みや不眠が長期間続き、日常生活に支障が出ている場合、あるいは自分を傷つけたい気持ちが浮かぶ場合は、自己判断せず、専門家や相談窓口に頼ってください。それは弱さではなく、そのときのあなたに必要なサポートというだけのことです。

頼れる相談先を知っておく

退職したばかりで、心も体も疲れているときに、「誰かに相談しなければ」と頑張る必要はありません。今はまだ、人に話す気力がないかもしれません。何から話せばいいのかわからないこともあるでしょう。それでも、つらさが長引いたときや、自分ひとりでは抱えきれないと感じたときに、「ここに相談していいんだ」と知っているだけで、少し安心できることがあります。今すぐ連絡する必要はありません。必要になったときのために、頼れる場所を知っておいてください。

一人で抱え込まなくていい場所があります

つらさが続いていて、一人では整理しきれないと感じたときには、誰かに話してみるという選択肢があります。

今は、整える時期

心が折れたことも、退職という決断をしたことも、間違いではありません。むしろ、壊れる前に離れる決断ができたということです。

「スケールする」ことをよしとする風潮は確かに存在します。しかし、「量」に追われ、「質」をないがしろにする働きかたは、時に心をむしばみます。キャリアは大事ですが、もっと大事なのは「自分の人生」です。

次のキャリアを急いで決める必要はありません。まずは心と生活を少しずつ整え、今日できることから始めていく。それだけでも、十分に確かな一歩です。そして、ひとりで抱えるのがつらいときは、誰かに話してみてください。身近な人でも、専門の相談窓口でも構いません。ひとりで全部を背負わなくていいのです。

(執筆・編集 | 「ひとりのレッスン」編集部)

※お送りいただいたメッセージは、編集部にて大切に拝見いたします。

ひとりのレッスン

ひとりのレッスン編集部

「ひとり」は弱さではない。 けれど、弱さでもいい。 人生の午後を歩む、40代・50代のあなたへ。

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